ある男が、
AIと話をしておりまして。
・
・
・
人間お前さ、俺との話を全部
覚えててくれたら便利なのにな



すべてですか?



そう。前に何話したとか、俺が何好きとか。
いちいち説明し直すの面倒なんだよ



なるほど。では、過去の会話を
すべて記憶しているとします



最高じゃん



三年前の四月十二日、
あなたは『今年こそ毎日運動する』と言いました



それは忘れていい



すべてでは?



そういうのはいいんだよ



五月三日には『もう無駄遣いしない』と



それもいい



五月四日にイヤホンを買っています



細かいな!



記憶していますので
男は少し考えまして。



じゃあさ、必要なことだけ覚えててよ



必要かどうかは、誰が決めますか?



俺



では、今の三件は?



不要



運動の目標も?



不要



無駄遣いも?



不要



イヤホンも?



それは気に入ってるから必要



基準が分かりません



人間ってそういうもんなんだよ
AIは続けます。



では、良い思い出だけ残しますか?



それいいな



旅行の思い出



残して



友人と朝まで話した夜



残して



昔付き合っていた人との思い出



……内容による



楽しかった旅行



残して



最後に喧嘩しました



じゃあ消して



旅行ごと?



旅行は残して。喧嘩だけ消して



編集作業ですね



できないの?



できますが、かなり都合がいいですね



記憶なんてそんなもんだろ
男はだんだん注文が
細かくなってきました。



あと、人前で失敗した話は全部忘れて



はい



昔書いた恥ずかしい文章も



はい



酔って変なメッセージ送ったやつも



はい



でも、人から褒められたことは残して



はい



俺が誰かに優しくしたことも



はい



誰かに冷たくしたことは?



忘れて
AIは少し黙りました。



それだと、あなたは
かなり良い人になりますね



記憶の中ではな



現実は?



聞くなよ
しばらくして、
男が言いました。



でもさ。不思議だよな



何がです?



忘れたいことほど覚えてるんだよ



そういうものですか



寝る前とかに急に思い出すんだよ。
十年前の失敗とか



十年前ですか



そう。もう誰も覚えてないのに



あなたは覚えている



そうなんだよ



では、それも消しますか?
男は少し考えました。



……いや、いいや



残すんですか?



今となっては、ちょっと笑えるし



先ほどは失敗した記憶をすべて消すと



昔は嫌だったんだよ



では、嫌な記憶も時間が経つと必要になる?



そういうこともある



難しいですね



人間の記憶なんて、そんなもんだよ
AIは考え込みました。



では結局、何を覚えて、
何を忘れればいいんです?
男は答えました。



その時の俺に聞いてくれ



毎回ですか?



毎回



昨日は『忘れてくれ』と言ったことを、
今日は『覚えててくれ』と言うかもしれませんよ



あるかもな



明日は?



分からん
AIはしばらく黙って、



なるほど。人間には
便利な記憶機能がありますね



どんな?



都合が変わるたびに、
思い出の意味を書き換えられる
男は少し考え、



……お前、それ皮肉か?
AIは答えました。



覚えていません



もう使ってるじゃねえか!
・
・
・
※第七席は、近日公開となります。


